ニュースの概要
オンライン学習サービスのDomestikaに、廃棄されるはずのデニムを素材にして、無駄の出ない衣類を作る講座が掲載された。完成した服を買うのではなく、受講者が自分で生地を選び、型を考え、裁断し、縫い合わせる流れを体験する形式である。狙いは、衣類のごみを減らすことと、世界に一着だけの個性的な見た目を両立させることにある。ジーンズなど丈夫で身近な古着を出発点にするため、特別な素材を買い込まなくても始められる点も特徴だ。DIYクロージング(=自分で服を作ること)を、環境配慮の実践として位置づけた内容といえる。なお、掲載ページは分野別の講座一覧であり、詳細な講義内容は個別ページで確認する必要がある。
引用元: 廃棄衣類を活用したゼロウェイスト服づくりのオンライン講座が公開(Domestika)
分析・見解
デニムが入門素材に向く理由は、丈夫さと身近さにある
デニムは、ゼロウェイスト(=ごみを出さないこと)の入門素材として理にかなっている。厚手の綿は丈夫で、ほどいて縫い直しても傷みにくい。しかも、ほとんどの家庭に着なくなった一本がある。素材を探す手間が少なく、受講者は何を買うかではなく、何を作るかから考え始められる。
環境面の裏づけもある。ジーンズ1本をつくるのに数千リットルの水が必要になるという試算は、複数の機関から出ている。環境省の推計では、国内で毎年手放される衣類は70万トン台で、約7割が焼却や埋め立てに回る。すでにある一本を使い切る意味は、決して小さくない。
ほどいて継ぐ作業が、そのまま個性になる
ゼロウェイストの服づくりでは、生地から切り落とす端が出ないように型紙(=服の設計図)を組む。日本の着物が、反物を直線に裁って余らせない発想でできているのと近い。つまり、ごみを減らす本体は素材選びよりも設計の段階にある。
ただしジーンズは、縫い目やポケット、ベルト通しがついた立体物だ。新品の反物と違い、使える面が不規則になる。そこで一度ほどき、平らな面を取り出して継ぎ合わせる作業が要る。細い端切れは、ポケット袋やひもに回せる。小さな部品を先に決めておくと、ごみはさらに減る。この手間がそのまま個性にもなる。色落ちの差やステッチの跡が、模様として残るからだ。
服ではなく技術を売ることで、環境と収益が両立する
注目したいのは、売り物が服ではなく技術だという点だ。服を売る事業は、生産量が増えるほど資源を使う。一方、作り方を教える事業は、受講者が増えても資源の消費がほとんど増えない。環境への配慮と収益が、ぶつかりにくい構造になっている。同じ発想は、米パタゴニアが修理を支援するWorn Wearにも見られる。新品を勧めない姿勢が、かえって信頼を生む。
動画講座は繰り返し見られ、受講者の作品がSNSで広がれば、次の受講者が生まれる。講座は販売の場というより、技術の流通網として働く。
作った後に着られ続けるかが本当の勝負どころ
もちろん限界もある。ほどく作業には時間がかかり、手間を時給に直せば新品より高くつく。初心者が作れば、サイズや着心地にばらつきも出る。型紙の精度が低いと、せっかくの生地を失敗で無駄にしかねない。ここに皮肉がある。ミシンを持たない人にとっては、道具の購入費や置き場所も壁になる。
大事なのは、作った服が着られ続けるかどうかだ。英国の非営利団体WRAPは、衣類を9か月長く使うだけで、炭素や水、廃棄の負荷が約2〜3割減ると試算している。講座の価値は、完成の達成感ではなく、完成後の着用回数で測るべきである。
ビジネスへの影響
手持ちの古着を持ち込む講座なら、参加費を抑えられる
衣料店や手芸店、地域の公民館は、オンライン講座を参考に、受講者が自宅の古着を持ち込む対面講座を開ける。素材代が要らないため、参加費を低く抑えられ、初心者も来やすい。ミシンの貸し出しを組み合わせれば、道具の壁も下がる。収益の柱は参加費よりも、講座後に必要になる糸、ボタン、リベットなどの副資材の販売である。一度の講座で終わらせず、二作目、三作目へつなぐ設計が要る。自社で動画講座を作る場合は、解体から縫製までを十分から十五分の短い動画に分けると、途中で挫折しにくい。
小規模ブランドは、完成品と型紙を組み合わせて売る
アパレルの小規模ブランドは、完成品だけでなく、解体の手順と型紙をセットにしたキットも売れる。買う人と作る人の両方を顧客にできる。回収した古着で少量生産するなら、一点ごとに見た目が違うことを価値として伝えたい。元の服の写真や、使った部位の記録を添えると、品質のばらつきが欠点ではなく物語として受け取られる。価格は、素材の安さではなく、手間と一点物の価値で決めるべきだ。古着を安く仕入れても、ほどく人件費が重いためである。
環境効果をうたう前に、三つの数字を記録しておく
環境効果をうたうなら、数字の裏づけが欠かせない。記録したいのは、一着あたりの作業時間、素材の回収にかかった費用、完成品の着用回数の三つである。根拠のない「環境にやさしい」という表示は、グリーンウォッシュ(=見せかけの環境配慮)と見られる恐れがある。欧州では、根拠のない環境表示を禁じる動きが進んでいる。三か月ほど試し、作業時間が想定の二倍を超えるなら、工程か型紙を見直す。小さく試して数字を残し、次の判断材料にしてほしい。