ニュースの概要
マレーシアの若手デザイナーたちが、服の作り方そのものを見直し始めている。Lim Yu Jie氏は、高級ブランドの製造過程で余ったデッドストック(=売れ残りや使われなかった生地)を集め、端材を出さないゼロウェイスト型の試作品を仕立てた。Sam Shu Yi氏は古いデニムを解体して縫い直し、海の劣化やファッション産業による汚染を訴えるコレクションを発表している。別のデザイナーは植物染料を使った作品づくりから、自分なりのサステナビリティ(=持続可能性)の考え方を固めた。環境への圧力が強まるなか、新しい世代が素材選びから発信の仕方までを組み替えている様子を伝える内容である。
引用元: マレーシアの若手デザイナー、デッドストックや廃棄デニムを活用し責任ある服作りを推進(The Star)
分析・見解
余り布を原料と見なす発想が出発点になる
Lim氏が使う高級ブランドのデッドストックは、品質が高いのに行き場を失った素材である。新品の生地を買わずに済み、しかも手触りや織りの質が良い。これはアップサイクル(=捨てられるものを価値の高い製品に作り替えること)の大きな利点だ。
ゼロウェイストの型紙は、布を余さず使い切るように線を引く。そのため裁断の段階でデザインが決まる。見た目の自由度は下がるが、制約がそのまま個性になる。
デニムが語る素材として選ばれた理由
デニムは世界で最も多く作られる衣料素材の一つで、その分だけ古着や廃棄も多い。一本のジーンズを作るには、綿の栽培から染色、洗い加工まで大量の水を使うといわれる。Sam氏がこの素材を選んだのは、環境負荷の象徴だからだろう。
海の劣化という主題を、廃棄された素材そのもので表現する点が肝になる。メッセージと素材が一致していれば、説明を足さなくても服が語り出す。日本の児島で進む古いデニムの再生事業や、欧州の回収ジーンズを繊維に戻す取り組みとも通じる動きである。
植物染料は美しさと現実の折り合いが問われる
植物染料は合成染料より排水の負担が軽く、肌にもやさしい。一方で、色が日光や洗濯で変わりやすく、毎回まったく同じ色を出すのは難しい。この揺らぎを欠点と見るか、一点物の魅力と見るかで商品の価値が変わる。
若手が小さなコレクションから始めるのは合理的だ。少量なら染めムラも個性として説明でき、失敗のコストも小さい。大量生産を前提にしないことで、はじめて成り立つ誠実さがある。
本当の分かれ目は規模を広げられるかにある
今回の三例は、いずれも少量生産だ。端材や古着は入手量が不安定で、同じ服を百着、千着と作るのは難しい。ここに独自の視点がある。供給の不安定さを弱点として隠すのではなく、数量限定という物語に変えられる者が強い。
また、ファッションへの責任を問う声が強まるなか、見せかけの環境配慮への視線も厳しくなる。素材の出どころを具体的に示せるかどうかが、信頼の差になっていくだろう。
ビジネスへの影響
素材の調達先を先に押さえた者が有利になる
アップサイクル事業の勝負は、デザインより先に調達で決まる。高級ブランドの余剰生地や古着の回収ルートを確保できれば、他社が真似しにくい強みになる。まずは地元の縫製工場やリサイクル業者と、定期的に端材を譲り受ける契約を結ぶのが現実的だ。量と色の見込みが立てば、年間の企画も組みやすい。
少量でも利益が出る価格設計を最初に決める
再生素材の服は、手間がかかる分だけ原価が高くなる。安く売る競争に入ると、続けられなくなる。素材の来歴、作り手、使った廃棄量を札やウェブで見せ、価格の理由を説明することが欠かせない。受注生産や数量限定の販売なら、在庫を抱えるリスクも減らせる。
発信は誇張を避け、数字と現物で示す
環境への配慮を大きく掲げるほど、根拠の薄さが目立つ。使った古着の本数や、削減できた端材の重さなど、確かめられる数字を出したい。工房の公開やワークショップで作る過程を見せれば、共感と購入の両方につながる。小さな実績を積み重ねて、少しずつ信頼を広げていくことが近道である。