ニュースの概要
米国の市場調査会社Fortune Business Insightsが、アップサイクルファッション市場に関する最新業界レポートを公表した。同レポートは2034年までの市場規模とシェア動向を予測しており、環境意識の高まりや規制強化を背景にした需要拡大が読み取れる。アップサイクルとは、廃棄される素材や製品に新たな価値を付与し、ファッションアイテムとして再生させる取り組みを指す。従来のリサイクルが素材レベルでの再生を意味するのに対し、アップサイクルはデザインの創意工夫によって付加価値を高める点が特徴だ。今回は同レポートの示唆する市場動向と、アパレル産業における実務レベルでの影響を掘り下げていく。
引用元: アップサイクルファッション市場の規模、共有|業界レポート[2034](Fortune Business Insights)
分析・見解
フランスの廃棄禁止法が業界の転換点に
アップサイクルファッション市場の成長は、消費者の環境意識の高まりだけが理由ではない。背景には構造的な変化がある。まず大きいのが欧州、特にフランスの法規制だ。フランスでは2020年に成立したAGEC法(反廃棄物・循環型経済法)により、売れ残った在庫の焼却や廃棄が原則禁止された。これによりブランドは余った在庫の「出口」を本気で考える必要に迫られ、アップサイクルはその有力な選択肢になっている。
工業廃材やレザー端材を素材に変える動き
次に重要なのは、素材の調達先が広がってきたことだ。かつてアップサイクルといえば古着を切って貼り合わせる小規模な手作業が中心だった。しかし今は違う。工業用の端材、自動車シートのレザー廃棄物、漁網に使われていたナイロンなど、産業から出る副産物を素材として使う例が増えている。たとえばスウェーデンのブランドE.I.V.はテントやヨットの帆布をバッグに作り替えている。オランダのMUD Jeansは回収したデニムを最大40%配合した新製品を出している。こうした動きは、「廃棄物」を「資源」として捉え直す試みだと言える。
3DスキャンとAIが裁断を、ブロックチェーンが信頼を支える
三つ目に見逃せないのがデジタル技術の広がりだ。3DスキャンとAIによる型紙生成を組み合わせると、形の違う廃棄物でも効率よく裁断・縫製できるようになりつつある。またブロックチェーン(改ざんが難しい記録の仕組み)を使って素材の来歴を記録することは、アップサイクル製品が本物であることを証明する手段になり、消費者の信頼につながる。イタリアのスタートアップQUVITAは、繊維のリサイクル履歴をブロックチェーンで記録し、消費者がスマートフォンでスキャンするだけで生産工程全体を確認できる仕組みを提供している。
小ロット生産の壁とグリーンウォッシュへの警戒
ただし課題もある。アップサイクル製品は一度に作れる量が少なく、品質にばらつきが出やすい。これは大手ファッションブランドにとって規模を拡大する上での壁になる。また「アップサイクル」という言葉自体が宣伝文句として使われ、実際にはごくわずかな再生素材しか使っていない「グリーンウォッシュ」の事例も見られる。消費者の目が厳しくなる中で、本当に価値のある取り組みができるかどうかが、今後ブランドが選ばれるかどうかの分かれ目になるだろう。
ビジネスへの影響
異業種の廃棄物を引き取る調達連携の可能性
意思決定者がまず注目すべきは、サプライチェーンの上流で出る廃棄物を自社製品に組み込む「異業種連携」の可能性だ。たとえば自動車メーカーがシート製造時に廃棄するレザーは年間数十トン規模にのぼる。これを引き取って小物やアクセサリーに作り替える仕組みは、素材コストの削減と廃棄物処理費用の削減を同時に実現できる。こうした異業種連携は自社の調達部門だけでは発想しにくいため、専任の「循環型資源マネージャー」を配置することが有効だ。
一点物の希少性を生かした限定品マーケティング
もう一つ実務上重要なのが、アップサイクル製品を「限定品」として打ち出すマーケティング戦略だ。使う素材が一つひとつ違うため、同じ商品は二つと存在しないという特性がある。これは希少性とストーリー性を兼ね備えた商品づくりに直結する。Keringグループが公表している環境損益計算書(EP&L、環境への影響を金額換算して示す仕組み)を参考に、自社のアップサイクル製品がどれだけ環境負荷を減らしたかを数値化し、商品タグやECサイトで示せば、購入意欲を後押しできる。
社内デザイナー教育と外部クリエイターとの協業
加えて考えるべきは、社内教育と人材育成だ。アップサイクルのデザインには、既存のパタンナー(型紙職人)が持つスキルとは違う発想が求められる。そのため外部クリエイターとの協業やワークショップの実施が効果的だ。本サイトのpage-07-workshops-education.htmlやpage-02-diy-techniques.htmlで紹介している教育プログラムを社内に取り入れれば、デザイン部門の発想の幅が大きく広がる。
ESG投資家への非財務情報開示としての活用
最後に、投資家への対応も忘れてはならない。ESG投資の基準が厳しくなる中、アップサイクルへの取り組みは非財務情報の開示を充実させる材料になる。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応としても、循環型のビジネスモデルづくりは優先度の高い課題だ。